そもそも墜落制止用器具(安全帯)とは
突然ですが、墜落制止用器具とは何なのかと聞かれて答えることができるでしょうか。
という方はいらっしゃませんか。
自分の命を預ける大事な器具のことなので正しく覚えておきましょう。
墜落制止用器具(安全帯)を簡単に説明すると「高所作業を行う場合に使用する命綱付きのベルト」のことで、フルハーネスや胴ベルトとランヤードで構成されたものを指します。
法令の改正に伴ってそれぞれの器具の定義がされました。
墜落制止用器具の定義
1. フルハーネス 2. 胴ベルト 3. ランヤード |
1、いつどんな作業で使うの
次に、どんな作業で墜落制止用器具を使うのかを知っておきましょう。
2019年に施行された法令では次のようになっています。
- 作業床の高さが6.75m(建設業では5m)を超えるところではフルハーネス型墜落制止用器具の使用を義務付ける
- 柱上作業、高さ2m以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところではフルハーネス型墜落制止用器具の使用を義務付ける
6.75m以上の高いところで使用することは簡単に想像できると思いますが、注目していただきたいのが2項目の「高さ2m以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところ」です。
高さが2m以上で足元のスペースが確保できなければ必ずフルハーネス型墜落制止用器具を使用しなければいけません。
足元のスペースが確保できても高所作業扱いなので、フルハーネス型ではなく胴ベルト型が使用できるというだけで、墜落制止用器具自体を使用しなくて良いということではないので注意してください。
作業をせずに脚立や梯子を昇降するだけであっても墜落制止用器具を使用することが義務付けられています。
もう一つポイントがあり、自分が高いところに上るときだけでなく、自分がいる場所に深さ2m以上の穴(開口部)がある場合も足元の高さとみなされるので、墜落制止用器具を使用しなければなりません。
中には「低い場所だから大丈夫」や「こんなところから落ちるわけがない」、「ちょっとだけだから」と高をくくって墜落制止用器具を使用しない人がいますが、どれだけ自分が注意していたつもりでも設備や環境によって事故が発生する可能性はゼロではありません。
好き好んで墜落事故を起こす人はいませんし、実際に墜落事故の経験がある方は口をそろえて「まさか自分が落ちるとは思わなかった」と言います。
物事に『絶対』はありません。
自分は「落ちない」ではなく、「落ちる“かもしれない”」という心構えが大切です。
そもそも間違っているところがあり、墜落制止用器具は「墜落した時の衝撃をやわらげる器具」であって、使用すれば墜落しなくなる器具ではありません。
2、墜落制止用器具の種類及び構造
法令の改正に伴って墜落制止用器具として認められるものはフルハーネス型と胴ベルト型の2つだけになりました。
以前まで安全帯として認められていたU字吊り安全帯(柱上安全帯)や傾斜面用安全帯は墜落制止用器具から除外され、フルハーネス型墜落制止用器具と併用することが原則化され、単体での使用は認められていません。
①フルハーネス型
フルハーネス型墜落制止用器具は肩から腰、脚まで複数のベルトで胴体部分の全体を支持することができるため、胴ベルトのように一部に負荷が集中せず、もし墜落事故が発生した場合でも落下したときの衝撃が体全体に分散緩和されて損傷を小さく抑えられます。
また、肩から脚までをベルトで固定する事で、落下して宙吊りになった時に逆さになる事が無く、胸や腹部などを局部的に圧迫することがないような構造になっています。
フルハーネス型は背面・側面の形状と腿ベルトの形状で分けられているので、それぞれの特徴を見てみましょう。
■背面・側面の形状による分類
フルハーネス型は背面・側面の形状でX型、Y型、H型の3つに分類されます。
・X型
安定感とフィット感を求めている方におすすめ。
身体を固定する力が強く、安定感とフィット感が良い点が特徴として挙げられます。
一般的に普及しているスタンダードタイプです。
・Y型
腰回りを広く使いたい方におすすめ。
胴ベルトの結合部が少なく腰回りを広く使えるのが特徴です。
腿ベルトが膝より下の方にあるので、鳶服に合わせても違和感なく着用できるので、鳶服と合わせて着用したり、腰道具を多く付けたりしたい方に向いています。
・H型
着崩れを防止したい方におすすめ。
サスペンダー機能で着くずれしにくい安定感があるのが特徴です。
背中部分がHの形というわけではなく、着用時の腰のサイドに特徴があり、安定感と格好よさで人気があります。
■腿ベルトの形状による分類
腿ベルトは見た目の形状でV字型、水平型の2つに分類されます。
・V字型
安全性を求める方におすすめ。
腿部分をサポートするベルトが股の下で合わさって骨盤を包み込む形をしており、しっかりと体を支えてくれるので安全性が高いのが特徴です。
ただし、束縛感があり動きにくいというデメリットもあります。
・水平型
動きやすさを求める方におすすめ。
腿部分に輪をかけるような形になっている水平型は束縛感がなく動きやすいことが特徴です。
ただし、動きやすい分、墜落時にずり上がってきて身体を圧迫してしまうリスクがあります。
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②胴ベルト型
胴ベルト型単体での使用は、フルハーネス型の着用者が墜落した際に地面に到達するおそれのある場合の代用として認められていますが、原則としてフルハーネス型を使用することが推奨されています。
フルハーネス型と併用することで落下した時の衝撃が分散されるので、胴ベルト型を身に着けることでより安全性が高まります。
胴ベルト型はベルトに道具を掛けることができるので高所作業のみでなく地上作業にも向いており非常に重宝するでしょう。
胴ベルト型はバックルの形状の違いがあるだけで、性能は変わりません。
・軽量バックル型
バックルをスライドさせベルトを押し入れ、締め上げて装着するタイプです。
重みを感じにくく作業の邪魔にならないため広く普及しています。
・ワンタッチバックル型
ワンタッチ式で通常のバックル式よりも着脱が簡単にできることが特徴です。
急いでいるときでも着脱にかかる時間やストレスが少なく、フルハーネス型と胴ベルト型を併用する方におすすめです。
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③その他
上でも触れましたが、柱上安全帯および傾斜面用安全帯はワークポジショニング用器具と分類されることになり、フルハーネス型と併用することが原則化されています。
■ワークポジショニング用器具
ロープに作業者の体重をかけて身体を預けて作業箇所に身体を保持するための安全帯を指し、柱上安全帯や傾斜面用安全帯があります。
・柱上安全帯
ロープを電柱などの構造物にU字状(U字吊り)に回し掛けし、身体を預けて使用する安全帯です。
・傾斜面用安全帯
メインロープに体を預けた状態で作業を行い、ライフライン(墜落防止用)に取り付けたグリップなどのランヤードを胴ベルトのD環に取り付けて使用する安全帯です。
3、オプション
フルハーネスや胴ベルトと組み合わせて使用するランヤードなどのオプション品について構造や特徴を解説していきます。
①ランヤードの種類
ランヤードには「ロープ式」「伸縮式(ストラップ式)」「巻取り式」の3種類があります。
違いはランヤードに使用される素材で、「ロープ式」は直径10~16mmのナイロンロープ、「伸縮式」はナイロン製綾織ベルト、「巻取り式」は芯糸の高強度アラミド繊維をポリエステル繊維で被覆した細幅ベルトが使用されています。
②ロープの種類
・ロープ式
ロープ式ランヤードに使用されるロープは「三ツ打ロープ」と「八ツ打ロープ(クロスロープ)」の2つがあり、違いはストランド(ナイロンの糸をより合わせた束)の数で、三ツ打は3本、八ツ打は8本のストランドを撚った(編み込んだ)ものになります。
八ツ打ロープは三ツ打ロープと比べると柔らかく扱いやすいメリットがありますが、強度が三ツ打ロープより早く低下するというデメリットもあります。
・伸縮式
伸縮式ランヤードに使用されるナイロン製綾織ベルトは八ツ打ロープと同様に、扱いやすいメリットと強度が三ツ打ロープより早く劣化するデメリットが挙げられます。
・巻取り式
巻取り式ランヤードに使用される専用ストラップ(芯糸の高強度アラミド繊維をポリエステル繊維で被覆した細幅ベルト)は薄型で高強度なのが特徴ですが、紫外線や屈曲によって速いペースで強度が低下してしまうので注意が必要です。
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③その他のアクセサリー
上に挙げたランヤードやロープのほかにも作業性や効率をよくするためのアクセサリーがあるのでご紹介します。
・連結ベルト
長さ350mm程度のベルトの先に輪が付いた形状をしており、フルハーネス型墜落制止用器具の背中にあるD環に取り付けることで、安全ブロックなどのフック着脱を簡単にするものです。
不使用時はマジックテープで固定できるタイプなどがあります。
・フックハンガー
ランヤードを使用しない時にフックをかけておくためのもので、フルハーネス型墜落制止用器具の胸部近くに取り付けて使用します。
フック以外にロープも保持できる形状のものがあります。
・各部パッド
サポートベルト
ハーネスにパッドを取り付けて使用することでベルトの食い込みや擦れを防ぐことができ、長時間の作業で各部へかかる負担を減らせます。
肩パッド、腿パッド、背当てパッドなどがあり、メーカーによって形状や大きさが異なるので、購入する際は取り付け可能かしっかり確認しましょう。
・反射材
反射材は他の人からの視認性を良くするためのもので、暗所や夜間作業など照明を使用して作業をする場合にとても重宝します。
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まとめ
この記事では「墜落制止用器具とは何なのか」と器具の種類や構造について詳しく解説してきました。墜落制止用器具の種類や形状はご自身が求める条件や好みによって変わってくるので、購入される際は記事を参考にしてみてはいかがでしょうか。